KiCadでピン数の多い回路シンボルを作成する
KiCadで回路を引くときに厄介な作業として回路シンボルの作成があります。
近頃はライブラリのOSS化が進んでいますが、自分が使うデバイスがない場合自作する必要があります。しかしピン数が100や200を超えてくると自力でやるには限度があります。
シンボルの中身はテキストなので自前で生成してもいいですが、今回はQuick KICAD Library Component Builder(以下コンポーネントビルダー)を使って作成します。
例としてXilinx社のXC7Z015-1CLG485という22×22のBGAのシンボルを作成してみます。
ピンリストの入手
多くのメーカはバウンダリスキャン用のBSDLファイルやピン配置のcsvやテキストファイルを公開しています。
Xilinx社Zynqの場合、UG865に記載があります。
https://japan.xilinx.com/support/documentation/user_guides/j_ug865-Zynq-7000-Pkg-Pinout.pdf
Intel(Altera)の場合、各デバイスごとにまとめてあります
自分が使いたいデバイスのメーカサイトを探して、テキスト形式のピン配置ファイルを入手します。
ピンリストの加工
あとで説明しますが、コンポーネントビルダーはスペース区切りでピン番号、ピン名が並んだファイルをインポートできるので加工します。
スペースが複数あったり、後ろに余計な文字がくっついているとうまくピン名がインポートできませんでした。
編集前 xc7z015clg485pkg.txt
Device/Package xc7z015clg485 10/16/2013 16:15:27 Pin Pin Name Memory Byte Group Bank VCCAUX Group Super Logic Region I/O Type No-Connect T10 DONE_0 NA 0 NA NA CONFIG NA N12 DXP_0 NA 0 NA NA CONFIG NA K11 GNDADC_0 NA 0 NA NA CONFIG NA ...
編集後
T10 DONE_0 N12 DXP_0 K11 GNDADC_0 ...
やる作業としては
余計な行を削除する(#がコメントアウトとして扱われるような記載があるような気がしますが試していません)
行の後ろ側の余計な情報を削除する
ピン番号とピン名をスペース1つ区切りにする(余計なスペースの削除、タブやカンマ区切りの場合は置換)
マルチカーソルや矩形選択のような機能を有するテキストエディタか、Excelで編集したものをCSVで出して置換を書けるといいと思います。*1
コンポーネントビルダーを使う
まずはサイトにアクセスします。
http://kicad.rohrbacher.net/quicklib.php
デバイス名とシンボルの形状を選びます。今回はBGAなので一番右下にグリッドの大きさを入力しています。
準備が出来たらAssign Pinsをクリックしてピン一覧編集に移ります。
ピン数が少なければ手入力でもいいですがなかなか骨が折れる作業ですので、ページ一番下にあるImport pin listをクリックします。
ここで先ほど作成したピンリストを読み込ませると
すべてのピン名とピン名から推論した属性まで設定してくれます。最高です。
あとはページ一番下のBuild Library Componentをクリックすると完成した.libがダウンロードできるのでKiCadで読み込みます。
成功です。これでピンがたくさんあっても怖くありません。
マルチエフェクター製作
以前FPGA基板を使って作ったマルチエフェクターを、1枚の基板にしました。
名前はComet Audio Effectorです。
画面はコーラスの調整画面です。
エフェクトはFPGAでデジタル音声処理をして作っています。
AD変換した音声をFPGAで音声処理し、DA変換して出力します。
イコライザー、ディレイ、コーラス、ディストーションの4種類を実装しています。
内部構成
中身は5枚の基板で構成しています。
基板はすべてKiCADを使って自分たちで設計しています。
ベースボード、LCD制御部、UI部に分かれています。
液晶はパラレルI/F、ボタンやLCDはI2Cで接続しています。
画面の表示や操作子の制御にはAtmelのARMマイコンを使っています。
画面
各エフェクトの画面はこんな感じ。
動作
音楽をかけて簡単に動作テストしてみました。
Comet Audio Effector 4種類のエフェクト動作確認です。 pic.twitter.com/49Qv53yS5l
— LogiClover (@logiclover_jp) 2017年4月29日
まだまだFPGAの処理能力に余裕があるので、いろんなエフェクトを増やしていこうと思います。
SPI Flashの使い方
組み込み工作でデータを格納したいときはFlashメモリを使うと便利です。
Flashメモリと言っても様々な種類があり、ざっくり以下のような分類ができます。
各社*1開発を行っており、微妙な違いで様々な製品があります。 例外もありますが型番の多くがメーカー名+数字で構成されておりカッコ内の示してあります。
- NAND Flash
- Parallel (_29)
- Address/Data組み合わせのコマンド方式
- Parallel (_29)
- NOR Flash
- Parallel (_29)
- Address/Data組み合わせのコマンド方式
- Serial
- SPI/QSPI/DSPI (_25)
- I2C (_24)
- Parallel (_29)
大容量のNAND Flashはお馴染みのUSBメモリなど、本当に大容量なデータの格納に使われています。 中・小規模なその他のFlashはプログラムの格納(外付けの場合)やFPGAのコンフィグデータの格納、ログデータやリソースの格納などに使われています。
LogiCloverでは
などで使用しました。
FPGAのコンフィグROMをPCから書き換える実験。
今回はSPIで制御するSerial NOR Flash(以下SPI Flash)の最低限の使い方について、FPGAのコンフィグで使用しているMicron社M25P40を例に説明します。 用意されているコマンドの種類やニーモニックが異なるだけで、基本的な使い方は各社同じです。
パッケージ
殆どのSPI FlashはSOIC8かSOIC16のようです。(1.27mmピッチ)
ピンアサイン
SOIC8のピンアサインは以下のとおりです (M25P40は対応していませんが、QSPIも含めた解説もしておきます。)
ピン名 | 方向 | SPI時 | QSPI時 |
---|---|---|---|
S# | 入力 | チップセレクト(CS) | チップセレクト(CS) |
C | 入力 | クロック入力(SCK) | クロック入力(SCK) |
DQ0 | 双方向 | データ入力(MOSI) | データ線0 |
DQ1 | 双方向 | データ出力(MISO) | データ線1 |
W#/DQ2 | 双方向 | 書き込み保護(使わなければH固定) | データ線2 |
HOLD#/DQ3 | 双方向 | 通信一時停止(使わなければH固定) | データ線3 |
SPIで使うときはW#/HOLD#はHigh固定で問題ないです。 QSPI時は帯域を増やすためにこの2つの信号線も通信に使用します。
インターフェース
電圧 : 2.3V ~ 3.6V
デバイスによっては1.8Vなど低い電圧までサポートしているものがありますが、5Vはほぼサポートしていないと見ていいでしょう。
もしArduinoの5V I/Oなどから使用する場合は必ずレベル変換してください。
通信周波数 : コマンドと電源電圧による
これがSPI Flashの厄介なところで、殆どのデバイスがコマンドと電源電圧によって最大周波数が異なります。 多くの場合Read命令とRead Fast命令が別れています。
Read Fastはダミーサイクルを挿入する代わりに(コマンドについては後述)最大周波数を上げています。 最近のデバイスでは100MHz超えも当たり前になっています。
M25P40を3.3Vで使った場合、下の表のとおりになります。
条件 | 周波数[MHz] |
---|---|
Read | 33 |
Read Fast | 75 |
それ以外 | 75 |
通信フォーマット
Master側のペリフェラル設定については割愛します。特殊なことは必要ありません。
クロック極性
立ち上がりエッジでキャプチャできるようにしてあれば大丈夫です。
CPHA,CPOLが(0, 0)か(1, 1)
ビットオーダー
MSBファーストで転送します。([D7, D6, D5, D4 … D0]の順に送る。)
送り方
命令によってデータの付け方が異なります。殆どの場合、データシートにまとめた表がだいたいあります。
送る順としては命令 + アドレス + モード + ダミー + データになっています。*2
アドレス、モード、ダミーなどは命令によって省略されるのでデータシートを確認してください。また最近のデバイスではアドレスに32bit指定可能なもの、ダミーサイクル数が指定可能なものなどもあります。
命令のみの場合
Write Enable, Write Disable, Bulk Erase, Deep Power-down など
命令1byte
例えば書き込み有効化のWrite Enableは、0x06を1byte送れば実行できます。
ステータス読み出しの場合
Read Identification, Read Status Register, Release from Deep Power-downなど
命令1byte + 読み出すデータ(IO1に出力される)
Masterから送るデータは最初の1byteに命令、あとは適当なダミーデータを送り、IO1のデータを読み取れば大丈夫です。
データ書き込みの場合
Page Programなど
命令1byte + 読み出しアドレス3byte + 書き込むデータ
指定したアドレスから順にデータを書き込んでいきます。
注意すべき点としては読み出しが一度に全部読み出せるのに対し、書き込みはページ単位(256byte)ごとに処理する必要があります。
データ読み出しの場合
Read Data Bytes, Read Data Bytes at Higher Speed など
命令1byte + 読み出しアドレス3byte + 読み出されたデータ(IO1に出力される。)
読み出したいデータ分だけ転送バイト数を増やすだけで大丈夫です。
通信速度を上げたい場合、代わりにat Higher Speed命令を送り、アドレスの後1byteは適当なデータを送っておけば大丈夫です。
制御方法
あとはコマンドをどう使うかだけ確認します。ここまでくれば後は送るだけです。
データ読み出し
Read Data Bytesで読み取りたい長さ分のSPI転送を行えば大丈夫です。
アドレス指定が出来るので任意アドレスのデータを読み出せます。
データ消去
消去命令は全領域消去を行うBulk Eraseと、特定セクター*3の消去を行うSector Eraseがあります。
Erase/Program系の命令他の命令と異なり別のコマンドと組み合わせが必要です。
- 実行前にWrite Enableを行う必要があります
- コマンド発行から完了まで時間がかかるためRead Status Registerでステータスを1byte読み出し、最下位ビットのWrite in Progress(WIP)が0になるまで待つ必要があります。
以下にフローを示します。
データ書き込み
PROGRAM命令を使って書き込み先を指定して書き込みます。
読み出しと異なりデータ長はページごと(M25P40の場合は256byteごと)に行います。
データ消去同様、Write Enableを事前に実行し書き込み後にWIPを待つ必要があります。
これは補足ですが一般的に書き込む前に事前にデータ消去を行います。
既にデータが書かれている場所にもう一度書き込んだ場合に正しく書き込めるかは保証されません。
終わりに
今回はSPI Flashの基本的な使い方についてまとめました。
PCからFlashやFPGAのコンフィグを行う実験のまとめになります。
後々需要があればツールは公開予定ですが、ご要望があれば優先度は考えます。
Arduinoでの制御例
2017/08/15 書きました、とりあえず動かしたい方はどうぞ。
※ Micron社 M25P40データシートより引用 https://www.micron.com/~/media/documents/products/data-sheet/nor-flash/serial-nor/m25p/m25p40.pdf
ISE Webpackでchipscopeが使えるようになっていたので試してみた
FPGA開発ツールには、実機でデバッグできるロジアナがついていることがありますが、Xilinxのオンチップロジアナ「Chipscope」はライセンスを購入しないと使用することができませんでした。
Xilinxの新しいツールのVivadoでは、ILAといわれるロジアナがフリーで使えるようになっています。
先日、ISEのライセンスを取り直したところ、WebpackのライセンスでChipscopeが使えるようにシレっと変更されていたため、試しに使ってみました。
Chipscopeの詳しい使い方はほかにも詳しいサイトがあるため、適宜割愛します。
1.プロジェクトにchipscopeを組み込むファイルを追加する。
ファイルマネージャーで右クリックし、New fileを選択します。
通常のIPを追加するときと同様にファイルを作っていきます。
特に必要な設定はありません。
次に、作成したchipscopeのファイルをダブルクリックすると、Core Inserterが起動します。
この画面で見たい信号を選択します。
この画面で見る信号を選択します。
詳細は割愛します。
設定をしたあと、ビットストリームファイルを生成します。
FPGAにbitファイルを書き込めば、FPGA内にロジアナが組み込まれます。
書き込んだ後、iMPACTを閉じないとJTAGが解放されないようなので注意しましょう。
書き込みが完了したら、Processesの一番下にある「Analyze Design Using Chipscope」を起動するとchipscopeが起動します。
このように、FPGA内の信号を見ることができます。
これはオーディオの波形を観測しています。
というわけでISE webpackでもchipscopeが使えるようになりました。
VivadoやAlteraのツールではすでに無料で使えるため、やっとという感じです。
シルバーウィーク開発合宿
2016年 9/22~9/25にLogiClover開発合宿を行いました。
作業はhastech、ぽよ氏と私kamiyaの3人で、基板テストからソフト実装まで様々なことをやりました。概要を下記に記します。
Comet Audio Effectorの機能拡張
Comet Audio Effectorの機能を拡張しました。MFT2016で展示していたFPGAを使ったオーディオエフェクタのEQバンド数を拡張しました。
FPGA上で4chのパラメトリックイコライザが動作しており、周波数特性も画面上で確認できます。 pic.twitter.com/DwxjEqUIlJ
— LogiClover (@logiclover_jp) 2016年9月23日
FPGA内でパラメトリックイコライザを直列に接続して実現しています。
また、周波数応答もすべての応答を加算することで最終的な応答を描画しています。
高速ADCボードの試作
FPGAで高速信号処理を行うアプリケーションを作成するために、高速ADCを載せたボードの試作を行いました。
ユニバーサル基板に回路一式を実装してSirius Spartan6ボードでHDLを書いてデータを確認するところまでぽよ氏が実装しました(すごい)
LogiClover名刺のSW実装
デジタルオーディオ出力するLチカ名刺の試作機です。PSoC5LPを使っています。 pic.twitter.com/hRnF0k9wf9
— LogiClover (@logiclover_jp) 2016年9月16日
光オーディオ出力をする名刺を作っています。USB経由での音声データ転送のための通信と、SPIFlashの実装を行いました。
SPI Flashへのデータの転送は、Tera Termからxmodemで行います。
新基板の動作確認
その他改版を行った基板の実装とテストを行いました。ある程度改版を行って設計的にもある程度煮詰まりつつあります。
またこれから基板を作るに当たってのライブラリ等設計ルールの検討など改めて再考慮する箇所を検討しました。
まとめ
正式に新規メンバとして参加したぽよ氏が基板を作ってHDLを書いてADCを動かしたことが何と言ってもすごいところでした。
FPGA開発特にHDLはだいぶ難しいところがあり、ほとんど勉強会のようになっていました。
ちなみにhastech氏は明日から海外出張だそうです。。
KICADの他のプロジェクトから回路をコピーする
KiCADでは、普通のコピーペーストを使って異なるプロジェクトから回路をコピーすることができません。
ほかのプロジェクトから回路をコピーする方法をまとめました。
使用したKiCADは4.0.1です。
1.回路をペーストしたいプロジェクトのフォルダにコピー元の回路図を入れる。
ちなみに、コピーしただけではKiCAD上で回路図は見えません。
2.ペーストするプロジェクトの回路図で階層シートを作成する
右側にある「階層シートの作成」ボタンで階層シートを作成します。
階層シートを回路図上に書くと、作成するシートの名前を聞いてきますので、先ほどフォルダ内にコピーしたファイルのファイル名を入力します。
回路図が既に存在しているといわれますが、OKを押します。
この作業をすることで、コピーした回路図を同じプロジェクトの回路図階層として扱うことができます。
3.回路をコピー&ペーストする
ここまで来ればあとは通常のコピー&ペーストと同様です。
回路図ブロックを選択し、「ブロックを保存」を押します。
ブロックのコピーではないので注意が必要です。
階層ナビゲータで張り付けたい回路図に移り、画面上部の貼り付けボタンを押せば回路図がペーストできます。
MAKER FAIRE TOKYO 2016参加
8/5~8/6に開催されたMaker Faire Tokyo2016にて、ISGK InstrumentsさんのブースでLogiCloverの作品を展示してもらうことができました。
LogiCloverでは、LogiCloverフォームファクタを活用したエフェクタ Comet Audio Effectorを展示しました。
今回の展示は私hastech,とkamiyaに加え、ぽよ氏にもご協力いただきました。
展示の様子
Comet Audio Effectorは入力した音声に対してイコライザー処理をすることができます。
展示では、ロータリーエンコーダーを回して音色が変化する様子をデモしました。
MFT2016展示の様子です。 #MakerFaireTokyo2016 pic.twitter.com/etNEIOJrUZ
— LogiClover (@logiclover_jp) 2016年8月6日
来場者からの評価はまずまずで、基板から自分たちで作っているの? どのくらいの値段で実現しているのか? などのコメントをいただきました。
また、「このボードはどこで買ってきたのか?」「いくらで売っているのか?」というご質問をいただきました。
これは今回の反省点の一つで、私たちが「基板自体」を作っているということをうまく来場者に伝えられていなかったためだと思います。
LogiCloverでは、プロトタイピングのプラットフォームそのものを作っています。
販売についてですが、LogiCloverとしては当初MFTでの評判を考慮したうえで、販売するかどうかを決定する予定でいました。
結果として、今回多くの方から、販売をしてほしいという声をいただいたため、現在販売方法等含め検討をしている段階です。
現段階では、スイッチサイエンス様等に委託販売をしていただく形が現実的かと思っていますが、詳細が決まりましたらWeb上で告知させていただきます。
今後の目標
今回の展示をするにあたって、基板のラインナップをそろえるのに時間がかかってしまい、イコライザ以外の機能を実現することができませんでした。
今後はComet Audio Effectorにディレイやコーラスなどのエフェクトを入れて展示をしたいと思っています。